対北朝鮮制裁決議を受けて(2017年9月12日)

本日早朝に対北朝鮮制裁決議案が採択され、当初案の「北朝鮮への石油輸出の全面禁

止」を「輸出量に上限を設ける」とする等、各分野において原案を緩和する動きが見ら

れました。

 

2006年10月に初の核実験が実施されて以降、対北朝鮮制裁決議案の採択は9回目

となるようです。

 

今まで北朝鮮の挑発→アメリカの強硬な姿勢→北朝鮮の挑発激化→アメリカの強硬な姿

勢という悪循環でした。

しかし、9日(土)の建国記念日は無難に通過し、制裁決議案は緩和されたもので採決

される等、やっと一旦はその悪循環から抜け出したように思います。

 

そのお陰でドル円は週初ギャップアップオープンしており、その後も足元109円台後半

まで値を回復しています。

 

株価を見ても、市場ではリスク回避姿勢が幾分和らいでいることが分かります。NYダ

ウは再び22,000台を回復し、一時は19,200台まで下落していた日経平均株価も19,700台

まで値を戻しています。

 

ただし、ここから更な上昇は個人的に懐疑的に見ています。

 

マイナス材料は足元去ったこともあって、ここまでの上昇はある程度見込めるかと思い

ますが、110円という心理的節目を上抜けるほどの買い材料があるのか、というと個人

的にはNOです。

 

もちろん一時的に110円台半ば付近まで上抜けることはあるかと思いますが、それでも

すぐに戻ってくるのではないかと思っています。

 

というのも、来週のイベントとしてFOMCがあります。バランスシート縮小開始という

こともあり、これは正直ドル買い材料になるのか、ドル売り材料になるのか現時点では

予想し辛いところではあります。ただし、最近のFRB高官らの発言を聞いている限り、

利上げに積極的な発言はなかなか聞こえてきません。従って、FOMCの内容がタカ派

なるようなことはないんだろうなと思っています。ハリケーンの影響や、引き続き低調

なインフレについて触れられる可能性が高いでしょう。

 

ブレイナードFRB理事 (9/5):

“We should be cautious about tightening policy further until we are confident inflation is

on track to achieve our target,”

(インフレが目標達成に向けた軌道に乗っていると確信できるまで、更なる金融引き締

めには慎重になる必要があるだろう)

https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/brainard20170905a.htm(原文)

 

カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁 (9/5):

“It’s very possible that our rate hikes over the past 18 months are leading to slower job

growth, leaving more people on the sidelines, leading to lower wage growth, and leading

to lower inflation and inflation expectations,”

(過去18か月間の利上げが、雇用の成長を鈍化させ、多くの労働者を隅へ追いやり、賃

金や、インフレ及びインフレ期待の鈍化を招いた可能性が非常に高い)

 

もともとブレイナードFRB理事やカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁はハト派(利上げ

に慎重)ではありますが、ダドリーNY連銀総裁も先週ハリケーンがもたらす利上げへ

の影響等について言及しています。

 

ダドリーNY連銀総裁 (9/8):

“it’s possible they (hurricanes) could have effect on the timing of short-term

rate increases. ”

(短期的にハリケーンが利上げのタイミングに影響を与える可能性がある)

https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-09-08/dudley-says-hurricanes-may-have-temporary-effect-on-hike-timing

 

10年債利回りも2.01%から2.15%といい水準まで戻ってきていることもあり、更に税制

改革が年内に実現、なんてことにでもならない限りもう一段の押し上げはないように思

います。

 

今週は少なくとも、上値目途は110円67銭(8月31日の高値)程度と見ておこうと思います。

 

 

 

 

ついに108円割れしたドル円

今週は何かとドル円を押し下げる要因が多く、

本日14時頃に発生したメキシコでの地震等をきっかけに長らくサポートされていた108

円をついに下抜けてしまいました。

 

併せて意識されているのが米10年債利回りで、こちらはギリギリ大台の2%を割れる

ことなく推移していますが、週末9日(土)には北朝鮮建国記念日を控えており、な

かなか油断のできない状況が続いています。

 

ただし、ここから下げてもせいぜい1円程度なのではないかというのが個人的な意見で

す。というのも、これ以上ドル売り円買いを進める理由がないと思うからです。ドルを

買う理由は見つからないのですが、売る理由もないと思っています。理由は下記の通り

です。

 

FRBの金融政策を考えて見ると、バランスシート縮小はしゅくしゅくとやるでしょう

し、年内の利上げももはや20%程度しか織り込まれていない中で、更に利上げ観測が後

退してもドル円への影響は知れているような気がします。

 

②トランプ政権の政策うんぬんの話についても、債務上限の話は一旦暫定措置で合意し

ました。税制改革の話ももはや期待が後退しきっている状況下で、むしろ年内に何か出

たらラッキーぐらいの感覚で市場は捉えているように思います。

 

北朝鮮問題についても、市場では意識されていますし、何か報道がある度にドル円

下落していますが、その度に反発しています。そもそも北朝鮮が所謂レッドラインを越

えてくることはかなり可能性の低いことだと思いますので、北朝鮮の報道があった後は

むしろ絶好のドル買いのチャンスであるように思います。

 

④経済指標が下振れた場合、直後はドル円の下方向で反応するとは思いますが、有る程

度それは織り込まれているような気がします。ハリケーンによる一時的下振れであるこ

とが分かっている以上、下落が続くような影響はないと思っています。更に、自然災害

は必ずしも悪いことばかりではないのです。発生直後はもちろん悪影響が前面に意識さ

れますからドル売り反応してますが、復興支援需要がありますから、むしろ中長期的に

見ればドルや米株にとっては好材料とも成り得るのです。

 

と、そんな感じで今後のドル円を見据えています。

 

 

 

来週7日(木)はECB理事会(2017年9月1日)

表題の通り、来週7日(木)にはECB理事会(20:45~)があります。

 

欧州に関しては、最近ずっと来年のQE減額に向けた話題が注目されているかと思いま

すが、今月のECB理事会で来年のQE減額を決定するということは可能性としてかなり

低いのではないかと思います。

 

これはECBに限らず、他の中銀もそうかと思いますが、金融政策動向に関する意思決定

をする際には、通常前もって数カ月前から市場と密にコミュニケーションを取りなが

ら、市場が徐々に織り込んだ後、意思決定を表明するケースが圧倒的に多いと思いま

す。突如発表してしまうと市場は驚いてしまい、不本意な為替の変動を起こしてしまう

ためです。

 

7月ECB理事会後の記者会見(Q&A)ではドラギ総裁が、

"our discussions should take place in the fall – or in the autumn"

"(来年のQEについて)我々の議論は秋に行われるだろう”

と、議論開始がそもそも秋としています。

https://www.ecb.europa.eu/press/pressconf/2017/html/ecb.is170720.en.html

 

発言を踏まえた上での個人的な予想としては、今回の理事会でQE減額に関する地均し

的な内容が発表され(”QE減額について議論した”等の内容)、10月ECB理事会で本格的

に決定されるのではないかと考えています。

 

恐らく市場は今回のECB理事会にて議論したことが発表されれば、素直に期待からユー

ロ高で反応するのだろうと思います。

 

ただ一つ懸念としてあるのが、やはりユーロ高への懸念です。

ECB内でもここに関しては意見が割れている可能性があります。

というのも、先日のブログ ”ジャクソンホール会議を受けて(2017年8月26日)” でも掲

載した通り、ハンソン・エストニア連銀総裁やバイトマン独連銀総裁は現状のユーロ高

は堅調なユーロ経済を反映したものであると主張する一方、

 

昨日こんな報道があり、直後ユーロは下落しました。

"ECB unease over firmer euro risks slowing asset purchase exit: sources"

”ECBがユーロ高を懸念、資産買入縮小ペースを遅らせる可能性高まる:関係筋”

https://uk.reuters.com/article/us-ecb-policy/ecb-unease-over-firmer-euro-risks-slowing-asset-purchase-exit-sources-idUKKCN1BB15J

 

関係筋による話なので、誰なのかは分かりませんが、少なくともユーロ高が意識されて

いるのは事実でしょう。

 

ジャクソンホールではドラギ総裁がユーロ高に関する言及をしなかったことから、安心

感が広がりユーロ買いが進んだだけに、今回ECB理事会で言及されるようなことがあれ

ば、下振れ幅はかなり大きくなるのではないかと思います。

 

今週29日(水)には1.2を一度上抜けましたが、本格的に1.2を越えてくるのはやはり来

年のQEが決まってからなのではないかと個人的に感じています。

それまでは要所要所でECBによるユーロ高牽制発言・報道を背景に上値を抑えられる展

開が続き、1.17~1.20の間でレンジ推移がしばらく続くのではないかと思っています。

 

それではまた。

今週の経済イベント/相場予想

今週は数多くの米経済指標を控えています。

日付 時間 経済指標 市場予想 前回結果
8/30(水) 21:15 8月ADP雇用統計 188K 178K
21:30 2QGDP(前期比年率/二次速報) 2.7% 2.6%
8/31(木) 21:30 7月PCEコアデフレーター(前年比) 1.40% 1.40%
9/1(金) 21:30 8月非農業部門雇用者数変化 180K 209K
21:30 8月失業率 4.30% 4.30%
21:30 8月平均時給(前月比) 0.20% 0.30%
22:45 8月Markit製造業PMI 52.6 52.5
23:00 8月ISM製造業景況指数 56.5 56.3


引き続き注目するべきなのはインフレ指標なのでしょうが、

今週発表予定である8月PCEコアデフレーターについては、既に先日8月CPIが発表され

ていることもあり、CPI程の注目度合いではなさそうです。

 

平均時給についても、これも割りと中長期的な視点で見る必要であるため、今月の結果が予想を上振れたからと言って、中長期的なドル円の押し上げ材料にはならなさそうです。

 

今週の相場予想:

底堅く推移(108円00銭~110円50銭)

 

上記経済指標も勿論重要で、発表直後には相場が大きく変動があるかとは思いますが、

今週のドル円相場を考える上では米政治情勢や、地政学的リスクの部分も重要になるかと思います。

 

今週に限って言えば、北朝鮮祝日等の既に決まっているイベントはありません。

更に、先週26日(土)にもミサイルが3発発射されましたが、週明けのドル円のミサイ

ル発射に対する反応は特段見受けられなかったことを踏まえると、徐々に市場は慣れて

きたようにも思います。

 

米政治面でも、来週以降は米議会の夏季休会期間が終了し本格的に動き始めることが予

想されますが、今週大幅に様子が変わることは想定しづらいように思います。

30日(水)からはトランプ米大統領が税制改革への支持を呼び掛けるべく遊説を行う予

定で、散々後退してきた税制改革への期待も徐々に高まってくる可能性があると思いま

す。

 

従って、個人的な見解としては、じりじりと下がり続けてきたドル円も今週はやや反発

し、底堅く推移するのではないかと予想しています。

 

底堅いと考えるもう一つの理由として、①米金利、②ドル指数を見てもドルの下限に近い水準で推移しており、今週下限水準を下抜ける程の材料がない限り、やはり反発する可能性が高いのではないかと見ているからです。

 

ドル指数

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ここ数年、ドル指数は92付近を下限として反発する局面が散見されており、今既に92.50付近で推移していることから、ここら辺で反発すると可能性が高いと見ています。

 

金利(10年債利回り)

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米10年債利回りについては、2.10%(6/14安値)が一つの意識されるレベルかと思います。ここを下抜けるとするすると2%割れしてしまってもおかしくないように思いますが、足元では税制改革に対する期待も若干市場では出始めていることもあり、明確にこのレベルを割れる材料もないのではないかと考えています。

 

以上の理由から、今週は再び110円の大台に突入するのではないかと予想しています。

ただし、経済指標結果や突発的なニュース等を背景にドル円が急落した場合は、4月の

安値である108円13銭を一つの目安として注視していきたいと思います。

 

北朝鮮問題(2017年8月27日)

(最近は北朝鮮問題を巡る報道が相次いでいますね。

 

昨日(26日)早朝にも北朝鮮が短距離弾道ミサイルを3発発射したとの報道がありまし

た。今回のミサイルはそもそも米国本土に届くようなミサイルでもなかったようですし

結局3発とも失敗に終わったため週明けの相場に大きな影響はなさそうですが、北朝鮮

の挑発的な行動は止まりません。

 

ちょうど25日(金)は北朝鮮の先軍節(故金正日総書記が軍事優先の政治を始めた記念

日)で、北朝鮮は何かと記念日にミサイル発射等を実施するケースが多いため警戒して

いる人もいたかと思いますが、ちょっとした時間差でやはりミサイルが発射されてしま

いました。

 

この緊張感は今後もしばらくは続くのだろうと思います。

というのも、北朝鮮には今年もまだまだ祝日を控えているからです。

例えば、9月9日は建国記念日ですが、去年同日には核実験を実施しています。

 

米国側でも21日~31日まで米韓軍事演習を実施していることもあって、北朝鮮が挑発的

な行動を取りやすい期間でもあるように思います。

 

ただ、北朝鮮のミサイルは米国本土に到達する可能性があるほど技術が進歩していると

言われる一方で、北朝鮮もレッドラインを越えてくることはないんでしょう。

米国と戦争をしても負けるのは目に見えているでしょうからね・・・

 

ということもあって、足元では再び北朝鮮問題を巡って(他にも要因は米政治情勢等、色々ありますが)ドル円は上値の重い展開が続いていますが、建国記念日も過ぎれば市場は北朝鮮関連の報道に再び反応しなくなるんではないかと個人的に考えています。

 

9月にはECB理事会やFOMCも控えていますし、

徐々に市場の注目は金融政策等のイベントに移っていくのだろうと思います。

 

それではまた。

ジャクソンホール会議を受けて(2017年8月26日)

ジャクソンホール会議にて昨日イエレンFRB議長(23:00~)、ドラギECB総裁(4:00~)のそれぞれがスピーチを行いました。

 

スピーチの原文はそれぞれ下記URLからご覧いただけます。

 

イエレンFRB議長:

The Fed - Financial Stability a Decade after the Onset of the Crisis

 

ドラギECB総裁:

https://www.ecb.europa.eu/press/key/date/2017/html/ecb.sp170825.en.html

 

相場の反応を見てみると、

①ドルはイエレンのスピーチ直後に売られている一方、

②ドラギのスピーチ後はユーロ高で反応しています

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いずれも金融政策に関する踏み込んだ言及はなかったかと思いますが、

 

ドル売りの反応としては、

年内の利上げに関する言及も、金融政策に関する言及もなかったことから、

期待外れな内容だったため、失望感からドル売りといった感じでしょうか。

 

一方ユーロに関しては、

7月ECB理事会や、議事要旨でも少しユーロ高への懸念に言及されていたことから、

場の一部ではユーロ高懸念もあったように思いますが、当スピーチではユーロ高に関

する懸念がなかったことが好感された、と言う風に解釈されているものかと思います。

 

下記URLはブルームバーグの記事ですが、

ECBメンバーであるバイトマン独連銀総裁や、ハンソン・エストニア連銀総裁は現状

のユーロ高をあくまで欧州経済を反映したものだとしており、ユーロ高を懸念している

ような姿勢は彼らからは伺えません。

ユーロ高は景気回復を反映-ECBのハンソン氏とバイトマン氏 - Bloomberg

 

そんな中で、ドラギECB総裁からもユーロ高牽制発言が聞かれなかったことで、市場に安心感が広がり、ユーロ買い優勢となったのかもしれません。

 

個人的にはこの水準でもユーロ高懸念が示されない点を踏まえると、9月ECB理事会(9/7)で来年のQE減額決定を受けて大台の1.2を上抜ける展開を期待したいと思います。

 

それではまた。

 

ジャクソンホール会議を控えて(2017年8月23日)

こんばんわ。

 

今週末(24日-26日)にはジャクソンホールでのイエレンFRB議長、ドラギECB総裁、黒田日銀総裁等のスピーチを控えています。

 

シンポジウム自体の開催期間は、

8月25日午前9時~8月27日午前5時(日本時間)

となっているようです。

 

例年金融政策に関する言及がなされるケースが見受けられますが、今年のテーマは、

 

"Fostering a Dynamic Global Economy"

 

日本語に訳すならば、”ダイナミックな世界経済を求めて”とでもなるのでしょうか。

 

ちなみに過去5年間のテーマはこんな感じです。

2017: Fostering a Dynamic Global Economy

2016: Designing Resilient Monetary Policy Frameworks for the Future

2015: Inflation Dynamics and Monetary Policy

2014:Re-Evaluating Labor Market Dynamics

2013:Global Dimensions of Unconventional Monetary Policy

 

やはりタイトルを見ても金融政策に関する話が多そうです。

 

ちなみに各国総裁のスピーチのスケジュール(予定)は、

・イエレンFRB議長:25日(金)23時~

・ドラギECB総裁:26日(土)4時~

・黒田日銀総裁:未定

 

カーニーは2012年以降5年連続で出席していたものの、今回は出席を見送るようです。

 

逆に、ドラギは最後の出席が2014年と3年振りなだけに、何か金融政策への言及もあるのではないかと、一部では期待も高まっていましたが、先日ECB関係筋から金融政策について言及しないとの報道もあり、動向が気になります。

https://jp.reuters.com/article/ecb-policy-draghi-idJPKCN1AW0SP

 

米国でも引き続き根強いインフレ鈍化懸念が意識される中で、金融政策について言及がなされるか注目したいところです。

FRBも最初はインフレ鈍化は一時的と指摘していた一方で、先日公表された7月FOMC議事要旨では、下記のような記述があり、徐々にFRB内でもインフレに慎重な見方が出てきているのかなという印象を持ちました。

"some likelihood that inflation might remain below 2 percent for longer than they currently
expected"

当初FRBが想定していたよりも長い期間に渡って、FRBが目標としている物価上昇率2%を下回る水準で推移するだろう、という見方を数人がしているということですね。

https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomcminutes20170726.pdf

 

今週のジャクソンホールイベントを通過すると、来週は米経済指標(ISM製造業・非製造業、雇用統計等)も多く控えており、その後はFOMC、ECB、MPC等の金融政策イベントも予定されているので、イベントにつきない感じになりそうです。

 

それではまた。